時にはケンカをすることも?砂底でゆらゆら揺れるチンアナゴ
砂底から体の一部をのぞかせて、ゆらゆら揺れているチンアナゴ。ただそれだけなのに、なぜか人々を惹きつける不思議な生き物です。
全長はどのくらいなの?何を食べているの?サンシャイン水族館でも大人気のキュートなチンアナゴについてご紹介します。
チンアナゴってどんな生き物?
チンアナゴは、ウナギ目アナゴ科に属する海水魚の一種。インド洋から西太平洋の熱帯域のほか、日本でも琉球諸島、伊豆半島など、太平洋岸に分布しています。
チンアナゴという名前は、顔が狆(ちん)という犬に似ていることが由来です。英名の「spotted garden eel(スポテッドガーデンイール)」は、砂底から体をのぞかせる姿が庭で育つ草木に似ていることからつけられました。
見た目も暮らしも特殊なチンアナゴの仲間
アナゴ科にはマアナゴ、クロアナゴ、ハナアナゴなど、32属約150種がいます。いずれも色や形が似ているため、まとめて「アナゴ」と呼ばれていますが、いわゆるチンアナゴの仲間は、その中でもチンアナゴ亜科に属するものです。
チンアナゴは見た目も暮らしも特殊で、ほかのアナゴ科の生き物とは一線を画しています。
チンアナゴの代表的な仲間としては、次の種類がいます。
- チンアナゴ
- ゼブラアナゴ
- ガラパゴスガーデンイール
- シンジュアナゴ
- ニシキアナゴ
- アキアナゴ
- ホワイトスポッテッドガーデンイール
サンシャイン水族館では、1979年に鹿児島県奄美大島の瀬戸内町協力のもと採集を実施し、ゼブラアナゴを日本で初めて展示しました。それ以降も、シンジュアナゴやアキアナゴ、ホワイトスポッテッドガーデンイールなど、珍しい種類のチンアナゴの仲間を展示してきました。※ 現在は展示しておりません。
ずっと砂の中にいるの?チンアナゴの生態
チンアナゴの全長はおよそ30cm。体の2.5倍ほどある巣穴に体の3分の2を埋めたまま暮らしています。まだ小さいうちは泳いで生活していますが、成長して砂底の巣穴に落ち着いた後は、全身を現すことはほぼありません。警戒心が強く、異変を察知するとすぐ巣穴に体を埋めてしまいます。
基本的には夜間に場所を移動しているようですが、辛抱強く水槽を見守っていれば、もしかしたら砂底を這うように移動しているところを見ることができるかもしれません。移動した後は、チンアナゴが全身を使って穴を掘り、尾をくねらせるようにして穴に潜っていく様子を見ることができるはずです!
ちなみに、エサを食べるときも、チンアナゴは巣穴から出てきません。エサは主に動物性プランクトンで、体の下部分を巣穴に埋めたまま、流れてくるプランクトンを食べています。ゆらゆらと揺れながら口をパクパクと動かしているのは、水流にのって運ばれてくるプランクトンを食べているから。エサが流れてくる方向に応じて体の向きを変えるので、近くにいる一群は基本的に皆、同じ方向を向いています。
実は表情豊か!体の模様もチェックしたいポイント
「自分とエサ以外のことは我関せず」というようにも見えるチンアナゴですが、実は群れで暮らしていて、1匹でポツンとしていることはほぼありません。隣との距離が近すぎると、縄張り争いでケンカになることも。低い姿勢で向き合っているチンアナゴを見つけたら、ぜひその表情に注目してみてください。普段ののんびりとした様子が一転、怒りをむき出しにした顔で相手を威嚇しているのがわかります。
表情を楽しんだ後は、その体にも注目してみましょう。独特の見た目や、砂に埋まったままで泳がないといった特性から、「そもそも、本当に魚なの?」という疑問がわいてくるチンアナゴ。じっくり観察してみると、小さいながらもきちんとエラや背ビレが存在していて、れっきとした魚であることがわかります。
また、種類ごとに模様が異なることも、チェックしてほしいポイントです。チンアナゴは、灰色の体に黒い斑点が無数にあり、両側面とおなかにそれぞれ1つずつ大きな黒い斑点があります。このお腹の黒い斑点の中にあるのは、実はチンアナゴの肛門。じっと見ていると、排泄の瞬間が見られることもあります。
ちなみに、サンシャイン水族館でいっしょに飼育されているニシキアナゴはオレンジと白の縞模様で、チンアナゴより華やかな印象。サンゴ礁周辺の砂底に群れで暮らしていること、ほぼ巣穴の中にいることなど、生態はチンアナゴと同じです。
まだ明らかになっていないチンアナゴの生態
チンアナゴの生態は、明らかになっていないことがたくさんあります。例えば産卵行動にしても、メスが巣穴から体を伸ばして放卵した後に、オスが巣穴から出て放精するといわれていますが、1匹のメスと数匹のオスが直列する形で産卵・放精を行った例もあり、まだまだ謎に満ちています。
また、卵からかえったばかりの稚魚が透明で木の葉のような形であることはわかっているものの、その後どうやって成体のチンアナゴと同じ姿に成長するかまでは明らかになっていません。裏を返せば、それだけ観察しがいのある生き物であるともいえるでしょう。
サンシャイン水族館では、巨大な濾過装置や照明を用いて、チンアナゴたちが暮らしているサンゴ礁の海を再現。美しいサンゴ礁の砂底でひょこひょこと顔を出しているチンアナゴとニシキアナゴをできるだけ近くで観察できるよう、さまざまな工夫をしています。
チンアナゴとニシキアナゴは警戒心が強く、人の気配を察知するとすぐ砂に潜ってしまうため、飼育し始めた当初は苦労しました。水槽のアクリル面をマジックミラーにし、人が近づいても気づかれないようにすることですぐに砂に潜ってしまう問題は解決。現在は、水槽とチンアナゴの距離を工夫することによって、マジックミラーなしでも間近で観察できるようになっています。
チンアナゴを守るには、サンゴ礁の保全も大切
チンアナゴやニシキアナゴが暮らすサンゴ礁は、さまざまな生き物の隠れ家や産卵場所になっています。しかし近年、温暖化や環境汚染、森林伐採などの影響を受けてサンゴ礁は少しずつ減ってきており、その生態系が脅かされているのです。
サンシャイン水族館では、2006年からサンゴ礁の再生に取り組み、水槽で殖やしたサンゴを沖縄の海に返す活動を続けてきました。かわいらしいチンアナゴを観察しながら、チンアナゴたちのために、私たちにできることを考えてみてください。
“サンゴプロジェクト”の詳細はこちら!
https://sunshinecity.jp/file/aquarium/coral_project/
飼育スタッフから一言
サンシャイン水族館では、灰色の体に黒い斑点が特徴のチンアナゴと、オレンジと白の縞模様が特徴のニシキアナゴを飼育しています。
まだまだ謎がいっぱいのチンアナゴの魅力は、そのコミカルな表情と動き。巣穴から顔を出しては何かに驚いてすぐに引っ込み、また一斉に伸びてきて、水槽内に漂っている小さなエサを食べている気ままな様子は、見ていて飽きません。
チンアナゴの名前の由来でもある犬の狆(ちん)に顔が似ているかどうかも、ぜひチェックしてみてください!